労働時間の上限 規制対象は「労働時間」なのか「休息時間」なのか
以前「過労死等防止対策推進法」で「労働時間に法律上の絶対的上限はない」ということを書きました。
hamachan先生も繰り返し同じことをおっしゃられていますが
これ ↑ とか
では、日本の労働法では本当に絶対的な上限はないんでしょうか、と思ってちょいと調べてみたら、労基法36条にそのまま書いてるじゃありませんか。
・・・ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
で、「その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務」については労基則18条に「有害業務」として規定されています。
第十八条 法第三十六条第一項ただし書の規定による労働時間の延長が二時間を超えてはならない業務は、次のものとする。
一 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
二 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
三 ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
四 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
五 異常気圧下における業務
六 削岩機、鋲打機等の使用によつて身体に著しい振動を与える業務
七 重量物の取扱い等重激なる業務
八 ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
九 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
十 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
暑かったり寒かったり、あるいはうるさかったり有害物質を取り扱ったり。
また、年少者や妊産婦についてもいろいろな規制がありました。
(労働時間及び休日)
第六十条第三十二条の二から第三十二条の五まで、第三十六条及び第四十条の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。
2 第五十六条第二項の規定によつて使用する児童についての第三十二条の規定の適用については、同条第一項中「一週間について四十時間」とあるのは「、修学時間を通算して一週間について四十時間」と、同条第二項中「一日について八時間」とあるのは「、修学時間を通算して一日について七時間」とする。
3 使用者は、第三十二条の規定にかかわらず、満十五歳以上で満十八歳に満たない者については、満十八歳に達するまでの間(満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日までの間を除く。)、次に定めるところにより、労働させることができる。
一 一週間の労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を十時間まで延長すること。
二 一週間について四十八時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間、一日について八時間を超えない範囲内において、第三十二条の二又は第三十二条の四及び第三十二条の四の二の規定の例により労働させること。
(深夜業)
第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
2 厚生労働大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限つて、午後十一時及び午前六時とすることができる。
3 交替制によつて労働させる事業については、行政官庁の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。
4 前三項の規定は、第三十三条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させる場合又は別表第一第六号、第七号若しくは第十三号に掲げる事業若しくは電話交換の業務については、適用しない。
5 第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。
(産前産後)
第六十五条 使用者は、六週間 (多胎妊娠の場合にあつては、十四週間) 以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
第六十六条 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。
2 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
3 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
(育児時間)
第六十七条 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
2 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
とまぁ、実はすでにいろいろ規制があったわけなんですね。個人的には労働時間規制には2つのアプローチがありそうな気がします。
1つ目は、「労働時間」そのものに対する規制。例えば、労基則18条に挙げられているような「業務」そのものが有害な場合です。先述の粉じんや有害物質を扱う業務や、一昔前で言えばアスベストを扱う業務等でしょうか。近年の話題で言えば熱中症の危険がありそうな業務も含まれそうですし、実際労基則の方では「著しく暑熱な場所における業務」についてはすでに規制対象となっています。
2つ目は、「休息時間」に対する規制。代表的なのはインターバル規制でしょう。
過労死の労災認定基準には1ヶ月100時間、2乃至6ヶ月平均で80時間の時間外労働があれば業務と疾患との間に関連が強いとされていますが、これは労働時間の長さそのものというより、睡眠時間が取れないから疲労が回復しないという、必要な睡眠時間とか余暇時間から逆算して具体的な時間外労働の数字をはじき出しているようです。詳しくは「過労死110番」のHPに載っています (「脳・心臓疾患の労災認定基準の改定を求める意見書 | 過労死110番全国ネットワーク」) 。
また、それに関連して「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準 (改善基準告示) 」というものがあり、「拘束時間」と「休息期間」という1日の最大拘束時間と最低休息期間について定めています (例えばトラック運転手については拘束時間は1日16時間まで、休息期間は最低でも8時間以上。) 。
「労働時間」に対する規制は、「業務」に着目した方向性、「休息時間」に対する規制は「人」に着目した方向性といった感じでしょうか。年少者や妊産婦については、1日の時間外労働時間を規制するよりも15時間のインターバル規制みたいな、より多くの休息時間を取らせるという方向の方がしっくりくる感じですね。