お茶の間ブログ

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令和元年版 過労死等防止対策白書

「令和元年版 過労死等防止対策白書」が10月1日に閣議決定、公表されました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07039.html

 

今回の白書では、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で「等過労死等が多く発生し ている又は長時間労働者が多いとの指摘がある職種・業種(重点業種等)」のうち、平成30年7月24日の大綱の変更の際に追加された「建設業」と「メディア業界」についての調査結果を報告しています。

 

 

報道などでは建設業の現場監督に過労自殺が多いという記事が多く、それ自体は確かにそうなのですが、建設業ではほかにも重要な調査結果が報告されています。

 

それは「技能労働者と現場監督では精神障害の発病の要因となった出来事が異なる傾向がある」ということ、また「技能労働者の精神障害の発病の要因となった出来事は、災害関連のものが多い」ということです。

 

 精神障害事案のうち、平成23(2011)年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)に基づいて認 定された事案について、職種別・具体的出来事別にみると、「現場監督、技術者等」31件では「仕事の量・質」が24件と最も多く、次いで「仕事の失敗、過重な責任等の発生」が17件、「対人関係」が13件であった。

 「技能労働者等」42件では「事故や災害の体験」が29件と最も多く、次いで「対人関係」が10件、「仕事の量・質」が8件であった。

(「令和元年版過労死等防止対策白書」p.78)

 

「事故や災害の体験」というのは、足場から落ちたり、あるいはそれを目撃したり、あるいは自分のせいで同僚が怪我をしてしまった、ということでしょう。(要因はこれだけではないにせよ)精神障害の発病の要因として「事故や災害の体験」が最も多いというのは、特に死亡災害が多い建設業ならではの特徴と言えるかもしれません。

 

 

それらの対策として、そもそも労働災害を起こさせないというのはもちろんですが、もし起こった場合の事後ケアというのも必要になってくるかもしれません。

 

アンケート調査によると、所定外労働が生じる理由では、業務量の多さや人員不足のほかに「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため(予期せぬ設計変更等)」というのがあります。

また、「過重労働防止に向けて企業や工事現場に必要だと感じる取組」については、人員増が最も多いことに加え、「適切な工期や経費等の確保について発注元と協議、契約を行う」、「事務書類の簡素化を図る」などがあります。

 

メディア業界についてですが、「メディア業界」という業種分類は存在しないので、今回は放送、新聞、出版、広告をまとめて「メディア業界」としているようです。

 

で、アンケート調査によると、これら4つの業種で「所定外労働が生じる理由」が異なっています。(p.106)

全ての業種に共通しているのは「業務量が多い」「人員が不足している」というものですが、広告では、「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」や「顧客の提示する納期が短いため」が他の業種に比べて多いという結果になっています。

また放送では「災害・トラブル等の緊急対応のため」が他の業種に比べて多いです。

 

このように、建設業とメディア業界でも長時間労働の原因が異なるし、建設業の中でも技能労働者と技術者では異なり、メディア業界の中でもそれぞれ異なるという感じです。

 

しかし両者に共通しているのは、業務量が多いこと、人員が不足していることが長時間労働の原因となっているということと、それに加えて顧客からの要望に応えようとすることに原因があることだというのがわかります。元請け下請け関係や、公共工事も含めた発注のあり方を変えていく必要があるのでしょう。

 

白書の公表に先立ち、6月26日に「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」(しわ寄せ防止総合対策)が策定されました。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2019/190626torihiki.htm

 

中小企業庁の公表ですが、厚生労働省公正取引委員会とも連携し下請けいじめなどの撲滅を図り、労働環境の改善にもつなげていきたい考えのようです。

 

過労死対策というと、どうしても労使関係の枠内だけで捉えがちですが、こういう使使関係も巻き込んで社会全体で過労死ゼロを実現していこうとする姿勢は重要だと思います。