お茶の間ブログ

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「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の歴史

過労死防止に関する労働行政の対策として、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」というものがあります。平成14年に策定されてから、現在まで数度の改定がありますが、その改定の経緯について見ていきたいと思います。

 

①平成14年2月12日付け基発第0212001号(旧総合対策)

 最初の総合対策は、平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」を受けて、長期間の過重労働による業務上疾病を防止するための総合対策として策定されました。

 総合対策の構成は

  1 目的

  2 過重労働による健康障害防止のための周知啓発

  3 過重労働による健康障害防止のための窓口指導等

  4 過重労働による健康障害防止のための監督指導等

  5 過重労働による業務上の疾病が発生した場合の再発防止対策等

からなります。

 総合対策の内容は、事業者が講ずべき措置の周知啓発のほか、36協定における時間外労働に係る窓口指導、月45時間を超える時間外労働が行われているおそれがあると考えられる事業場に対する監督指導・集団指導等の実施、過重労働による業務上の疾病が発生した場合の再発防止の徹底の指導及び労働基準関係法令違反が認められるものに対する司法処分等です。

 また別添として

  過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等

があり、その構成は

  1 趣旨

  2 時間外労働の削減

  3 年次有給休暇の取得促進

  4 労働者の健康管理に係る措置の徹底

の項目から構成されています。

 事業者が講ずべき措置の内容は、時間外労働時間を月45時間以下とするよう努める等の時間外労働の削減、各種助成措置の活用等による年次有給休暇の取得促進、健康診断の実施徹底や産業医等による助言指導等による労働者の健康管理などです。

  

②平成18年3月17日基発第0317008号

(1)改定の経緯

 2005年の労働安全衛生法改正を受けて策定されました。これにより、平成14年2月12日付け基発第1063号は廃止され、旧総合対策となりました。現状の総合対策は、この平成18年通達を数度改定したものになりますが、内容や構成は平成14年通達と大きく変わっていません。

 

(2)総合対策

 2005年の安衛法改正は長時間労働者への医師による面接指導の実施や、健康診断後の産業医等の意見の衛生委員会等(労働時間等設定改善委員会含む)への報告等を盛り込んだものです。そのため本総合対策も「過重労働による健康障害防止のための監督指導等」の項目において、衛生委員会等の活動状況の確認や健康診断後の医師による面接指導等の事後措置の実施指導等に関する内容のほか、常時50人未満の労働者を使用する事業者に対する地域産業保健センターの活用勧奨が盛り込まれています。

 また、2003年の労基法改正による企画業務型裁量労働制の導入を受けて、裁量労働制に係る届出に際して、窓口において事業者が講ずべき措置の内容の周知指導が新たに項立てされています。

 なお「2 ・・・事業者が講ずべき措置等の周知啓発」の項目が「2 ・・・周知徹底」へ、「5 ・・・再発防止対策」の項目が「5 ・・・再発防止対策を徹底するための指導等」へそれぞれ変更されています。

 

(3)別添 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

 別添の事業者が講ずべき措置の項目のうち、「2 時間外労働の削減」が「2 時間外・休日労働の削減」へ変更され、新たに「4 労働時間等の設定の改善」が追加されました。

 内容としては、(時間外労働に加えて)休日労働の削減のほか、労働時間等設定改善指針の適用を踏まえた措置を講ずる努力義務、長時間労働者への面接指導や健康診断後の事後措置の衛生委員会等への報告、常時50人未満の労働者を使用する事業場における地域産業保健センターの活用等が追加されました。なお、年次有給休暇の取得促進は旧総合対策では「各種助成制度の活用などにより」とされていたところ、本総合対策では「計画的付与制度の活用等により」に変更されています。

 

③平成20年3月7日付け基発第0307006号

(1)改定の経緯

 2005年の安衛法改正により、2008年4月1日から常時50人未満の労働者を使用する事業場に対しても長時間労働者への面接指導の実施が義務づけられる等の改正があったことから、総合対策が一部改正されました。

 

(2)総合対策

 本改正で新たに追加されたのは、キャンペーン月間等の設定による周知や、月45時間超のおそれのある事業場への指導において36協定超の時間外労働や限度基準に適合していない場合などの指導等です。

 

(3)別添 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

 別添の事業者が講ずべき措置においては、新たに、2008年4月1日から適用される改正後の労働時間等設定改善指針に留意することや、長時間労働者への面接指導を地域産業保健センターで実施する場合においては、該当労働者の勤務の状況を当該医師に提出するとともに法令に基づき当該面接指導の結果を記録し保存すること等が盛り込まれました。

 

平成23年2月16日付け基発0216第3号

(1)改定の経緯

 主に2008年の労基法改正(2010年4月1日施行)を受けての総合対策の一部改正です。2008年の労基法改正では、特別条項による時間外労働に対する割増賃金の割増率を25%以上とする努力義務、月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金の支払い義務及び年次有給休暇の代替付与制度の創設(ただし中小企業には当面の間適用猶予)、年次有給休暇の時間単位取得などが定められました。

 

(2)総合対策

 新たに、月45時間超の時間外労働のおそれのある事業者に対する監督指導等において、長時間労働の抑制を図るため、中小事業主以外の事業主に対し、月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金が支払われていない場合などには必要な指導を行うことなどが盛り込まれました。

 

(3)別添 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

 2010年3月19日の労働時間等設定改善指針が改正され、新たに年次有給休暇を取得しやすい環境の整備に関して事業者が講ずべき措置の項目が追加されたことから、事業者が講ずべき措置として、当該内容が新たに盛り込まれています。

 

平成28年4月1日付け基発0410第72号

(1)改定の経緯

 2015年12月からストレスチェック制度が施行され、また、2014年に過労死等防止対策推進法が施行されたことを踏まえ、総合対策が一部改正されました。

 

(2)総合対策

 新たに、月45時間超の時間外労働のおそれがある事業者に対する監督指導等の項目に、ストレスチェックの実施及び高ストレス者に対する面接指導、またストレスチェック制度の実施が努力義務とされている常時50人未満の労働者を使用する事業場に対しては、(独)労働者健康安全機構助成金や地域産業保健センターの活用等が盛り込まれています。

 

(3)別添 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

 事業者が講ずべき措置としてもストレスチェック制度の実施が盛り込まれていますが、過重労働によるメンタルヘルス不調における就業上の措置の必要性に触れながら、「長時間労働者を対象とした面接指導だけでなく、高ストレス者に対する面接指導も活用して、過重労働による健康障害防止対策に取り組むこと」としており、過重労働による健康障害防止には、労働時間とメンタルヘルス両面からの取組が必要であるとの認識が示されています。

 

平成31年4月1日付け基発0401第41号、雇均発0401第36号

(1)改定の経緯

 2018年の働き方改革関連法成立により、時間外労働の上限規制の導入や長時間労働者への面接指導の強化、高度プロフェッショナル制度の導入及び勤務間インターバル制度の導入の努力義務などが定められたことにより総合対策の一部改正が行われました。勤務間インターバル制度も含まれることから、雇用環境・均等局との連名通達となりました。

 

(2)総合対策

 「3 過重労働による健康障害防止のための窓口指導等」の項目において、以下の内容が追加されました。

 まず、中小事業主については、労基法第36条の適用が2020年4月1日からとなっていることから、36協定の届出時においては引き続き限度基準を遵守するよう指導を行うこととされました。また、「(3)労働時間等の設定の改善に向けた自主的取組の促進に係る措置」において勤務間インターバル制度の導入を促すことが追加された。

 また、「4 過重労働による健康障害防止のための監督指導等」の項目において、高度プロフェッショナル制度適用者を除く全ての労働者の労働時間の状況の把握の状況について確認することが追加されるとともに、法令に基づく面接指導の実施等が盛り込まれました。さらに、高度プロフェッショナル制度適用者の健康管理時間を把握する措置を確認し、高度プロフェッショナル制度適用者に対する面接指導及びその実施後の措置等が取られていない場合の必要な指導などが追加されました。

 

(3)別添 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

 「2 時間外・休日労働時間の削減」の項目が「2 時間外・休日労働時間の削減」と「等」が追加される形で変更されました。

 内容としては、労基法改正による上限規制を踏まえ、36協定の締結に当たっては、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第323号)(中小事業主については限度基準)に適合したものとなるようにするものとされました。また、高度プロフェッショナル制度適用者を除く全ての労働者の労働時間の状況を把握し、過重労働とならないよう十分な注意喚起を行うなどの措置を講ずるよう努めることとされました。さらに、高度プロフェッショナル制度適用者に対しては、法令上の健康管理時間の把握及び健康・福祉確保措置等を実施することとされました。

 また、「4 労働時間等の設定の改善」の項目において、勤務間インターバル制度の導入に努めるものとされました。

 

 大きく拡充されたのが「5 労働者の健康管理に係る措置の徹底」の項目です。以下で、やや詳細に紹介したいと思います。

  まず、長時間労働者に対する面接指導については、まず労働時間の状況(高度プロフェッショナル制度適用においては健康管理時間)の把握を行い、面接指導を確実に実施すべき水準が月100時間超の時間外労働等から月80時間超に引き下げられました。(高度プロフェッショナル制度適用者においては、面接指導を確実に実施すべき水準は週40時間超の健康管理時間が月100時間超の場合です。)また、産業医への情報提供及び産業医から勧告を受けた際の衛生委員会等への報告も追加されました。

 さらに、「(4)メンタルヘルス対策の実施」の項目が追加され、メンタルヘルス指針に基づき衛生委員会等を通じて策定した「心の健康作り計画」に基づく措置を実施することとされたまし。

 また、その際に留意すべき点として「(6)労働者の心身の状態に関する情報の取扱い」の項目が追加され、安衛法104条第3項に基づき、平成30年9月に公表した「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」により、事業者は事業場における取扱規定を策定することとされました。これにより、労働者の心身に関する情報を適正に管理することとされました。

 

過重労働による健康障害防止のための総合対策については、概ね以上のような経緯を経て現在の形になっています。